
すべての人にとって、一日のはじまりの時間である「朝」。
その大切な時間を、より良い状態で迎えるには、脳の働きが重要になってきます。
どのようにすれば、朝、効率よく脳を活性化できるのか。そのために必要なものとは?
ブレインイメージング研究の第一人者である東北大学 川島隆太教授に朝と脳の関係について話を聞きました。
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1959年生まれ。千葉県出身。1985年東北大学医学部卒業。同大学院医学研究科修了、医学博士。専門は脳科学、脳機能イメージング学。スウェーデン王立カロリンスカ研究所客員研究員、東北大学加齢医学研究所助手、同講座を経て2001年東北大学未来科学技術共同研究センター教授。前文化庁文化審議会国語分科会委員。著書多数。大学時代はラグビー部に所属。
―一日の中で、脳がもっとも活動するのは、いつなのでしょうか。
私たち人間の脳は、朝起きてから正午までが一番活動するということが、さまざまな研究から分かっています。さらに朝食を食べることで、脳にエネルギーが供給されます。つまり脳がもっとも活動するのは、朝食を食べた後の午前中なのです。その後、疲労により脳の働きは低下していきます。 昼食を食べて休憩を取ることで、疲労は若干回復するのですが、夜にかけてだんだん鈍っていきます。
―先生が毎日行っている「朝のスタイル」を教えてください。
早起きして、研究室に来ることを心掛けています。私の師であるローランド教授から「一日のうちで朝だけが、自分のための時間を作るチャンスがある」と、いつも言われていたのです。教授のいうように、日中や夕方は来客や電話の対応などで、自分のための時間をほとんど作ることができません。なるほどなと思いました。
今は寒い時期(注:インタビュー時)なのでちょっと遅めですが、毎朝5時30分ぐらいには起床し、6時30分には研究室へ来ています。暖かい時期だと、さらに30分ぐらい早く来て、秘書や学生たちがやってくる9時まで、自分のための時間として活用しています。私自身も「朝は非常に作業効率がいいな」と実感しています。
また、夜に家族団らんの場を持とうとしても、帰宅時間がバラバラだったりして、なかなか難しいですよね。でも朝なら、家族みんなが早起きすれば、団らんの時間を過ごすことは可能です。私は家族の絆を深めるのにも、朝は一番いい時間だと思います。
―脳の働きを活性化させるのに、効果的な食べ物はありますか。
以前は脳細胞を働かせるのに、ブドウ糖だけがあればいいといわれていました。しかし最近の研究で、タンパク質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラルなども必要であることがわかってきました。例えば、パンとコーヒーだけで朝食を済ませたとしても、あまり効果はありません。パンにバターをつけたり、卵や野菜を一緒に食べたりすることで、バランスよく取り入れた栄養が脳にエネルギーとなって伝わるのです。
栄養のバランスという面では、和食が一番適しているかもしれません。中でもみそ汁は、タンパク質を取れるだけでなく、いろいろな具が入っていますから、朝ごはんにはぴったりの一品。このほかにも、ごはんやおかずが1〜2品付くわけですから、バランスが非常にいいですね。
私は文部科学省とともに、全国の小・中学生を対象とした「生活習慣と認知機能の関係を調べる調査」を行っています。そのうち、中学生のデータからは「早起きすると子どもたちは、認知機能が高い」という結果が出ています。「早起きは三文の得」ということわざがありますが、子どもたちは「早起きすることで脳が発達し、認知機能が高まる」という良い影響を受けています。心身ともに成長段階にある子どもたちにとって、それだけ朝は重要だということなのです。
また、朝ごはんを食べてきた子どもと、食べてこない子どもの差は歴然。朝食抜きで学校に来ても、脳はまったく働きません。朝ごはんを食べないと、集中力は上がらないということは、実験結果からも明らかになっています。これではせっかく登校していても、学校を休んでいるのと同じです。子どもだけに限らず、会社に勤めているサラリーマンの方々にも、同じことがいえます。

―朝、脳を活性化させるためには、どのような方法がありますか。
「脳の司令塔」と呼ばれる前頭前野(※1)は、年齢を重ねるごとに機能が低下してきます。歳とともにいろいろなものが失われていくことは自然なことですが、「前頭前野の機能低下が、生活の質を低下させているのでは?」と我々は考えました。
東北大学では「より豊かに、健やかに老いていこう」という“スマートエイジング”の考え方が進められてきています。その中で私は「前頭前野の働きの低下を緩やかにしたり、あるいは改善したりすること」を提案しました。その有効な方法として最初に発見したのが、文字や数字を扱うことだったのです。具体的には文字を音読したり、字を書いたりすることがあげられます。ほかには、顔を向き合わせて行う他者とのコミュニケーション、手や指を使って計算したり、ものを作ったりすることも効果的です。
「脳が一番活動する朝に、文字を扱っているもの」と考えた時に、最も適しているのが新聞なのです。同じ文章を何度も読むと、脳の働きは低下していく傾向がありますが、新聞は、毎朝新しい情報を活字として読むことができます。ですから、朝に新聞を読むことは、脳の活性化に最適だといえるのです。
早起きをして、バランスの良い朝食を取り、新聞を読む。これが脳を活性化する「朝の3カ条」といえるのではないでしょうか。一日に1度しかない「朝」という時間を、大切にしてほしいですね。

(※1)前頭前野とは、記憶や感情の制御、行動の制御など、さまざまな高度な精神活動を担っている。「脳の中の脳」とも呼ばれている。